SWITCHが荒木経惟の写真特集なので紹介したい
荒木経惟特集のSWITCHが発売されたので、見て欲しいなぁと思い、この記事を書くものであります。
写真というメディア
さて、先日の大橋仁騒動で写真に関心を持った方も、写真には関心を持たないけどクソだろ!と思った方もいるかと思いますが、好む好まざるに関わらず我々は生活の中で沢山の写真と接しています。
スーパーの広告にも、高級ブランドの広告にも、魚の捌き方を説明するためにも、ISISが脅迫する時も、美術館の展示にも写真は使われています。それは否が応でも目に入るもので、だからこそ写真は使われています。
様々な目的にあわせ、好き勝手に使われるのが写真です。 これは写真の特徴です。 今回のSWITCHの特集では、ホンマタカシがいくつかのチャプターを構成し、それぞれ荒木経惟の写真に関連させることで、荒木経惟の写真の特徴を感じられる内容になっています。
SWITCH Vol.33 No.2 ◆ 荒木経惟のたのしい写真術 ホンマタカシのアラーキー・ワークショップ13講座
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2015/01/20
- メディア: 雑誌
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荒木経惟の写真
荒木経惟、アラーキーの写真の特徴は写真を使いこなすところにあります。 先程も書いたように、写真というものは好き勝手に、都合がいいように使われるものです。 高尚な制作意図があろうがなかろうが、見る側がスーパーの広告だと思えばスーパーの広告です。 ポルノだと思えばポルノだし、アートだと思えばアートです。
だけど、写真の側からはそれを言うことはありません。あくまでも見る側が勝手にポルノだとかアートだと判断しているだけです。
アラーキーの写真は、その辺を上手いこと使います。丁寧に言えば、見る側のことを考えて写真を見せている。
アラーキーは偽が好き
「偽日記」からはじまる、撮った日とは異なる日付を焼き付けたプリントは、偽りの日付であっても見る側にどんな写真なのか説明してくれます。
日付を使い説明する一方で、それは最初から偽物だと明かしています。 説明と偽物という矛盾が同居するのはアラーキーだけではなく、真を写すとは名ばかりで写真にはよくあること。アラーキーはそれを明かしつつ、上手いこと1枚の写真に収めることができます。
写真の説明と嘘を活かした写真家はシンディー・シャーマン、写真家とは少し違いますが森村泰昌がいます。これらの写真家とアラーキーが違うのは、アラーキーは嘘っぽさがない写真も撮るところにあります。
アラーキーは純真な写真
アラーキーのデビュー作は「さっちん」という遊びまわる子供を撮ったものです。今回のSWITCHには全くでてきませんが、被写体が無邪気な子供ということもありストレートな写真です。
純真な子供の写真でデビューしておきながら、直後には自身の新婚旅行をハメ撮りを含め撮影した「センチメンタルな旅」を作っています。 さらには写真の嘘を暴くような「偽日記」を作り、人妻の緊縛の連載を始めます。
それなのに、アラーキーの写真からは純真さを感じます。
今回のSWITCHではアラーキーの撮影に立ち会ったナン・ゴールディンの疑問から特集が始まります。「なんで荒木は真面目に撮らないの?」という疑問です。
今回の特集では人物写真が少ないところがちょっと残念ですが、図書館にでも行けば色々写真集があると思うので見比べてみると面白いと思います。
アラーキーと他の人の写真
ホンマタカシの「たのしい写真」シリーズの特徴はある写真に似せて写真を撮る、ある写真と似た写真を探してどこが似ているのか指摘するところにあります。
今回の特集では途中に野口里佳がバスから撮った写真、ホンマタカシが荒木経惟の写真に似せて撮った写真が掲載されています。
どこが似ていて、どこが違うのか。写真なんて同じように撮れそうだけど、なぜか撮れない。撮る人によって違う。 というようなこと事が、同じテーマの写真を比べたり、同じように撮ったりすることで見えてきます。
写真と肖像権も
電車内で撮った写真と肖像権に関する事も書かれています。撮る側も見る側も関心が高いトピックなので、写真界隈ではこの写真と肖像権の話題は最近ちょくちょく上がってきます。
その中で取り上げられているのはアメリカで裁判沙汰になったフィリップ=ロルカ・デコルシアの写真は今回のSWITCHに出ているので探してみてください。
(フィリップ=ロルカ・デコルシアの裁判は肖像権について争ったものではないけど)
記事中では撮ってからモデルリリースをとるのも味気ない、みたいなことが書かれていますが、電車内で撮影して一人ひとりモデルリリースをきっちりともらっている人もいる、という話を聞いたことがあるので
面白いけどこの一冊では説明不足かも
今回のSWITCHはホンマタカシによる「たのしい写真」シリーズの最新作、というような作りになっています。 「たのしい写真」を既に読んだことがある方には、なんとなくホンマタカシの意図するところが汲み取れると思いますが、全く初めてだと説明不足で難しいかもしれません。
その点では不親切なので、とりあえずSWITCHを見て何が何だかわからないけど、もうちょっと知りたいという方はホンマタカシの「たのしい写真」を読んでみることをおすすめします。とりあえず一冊目がいいと思います。
- 作者: ホンマタカシ
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2009/05
- メディア: 単行本
- 購入: 17人 クリック: 159回
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また、アラーキーがどんな写真を撮っているのかよく知らない、という方もわかりにくいかもしれません。荒木経惟は数百冊も写真集を出しているので図書館に行けば2、3冊くらいはあると思うので、ちらっと見ると面白いと思います。
私のおすすめ写真集
荒木経惟の特徴的が出ていて、今回の特集に近い内容のもの、を考えると * センチメンタルな旅・冬の旅 * 偽日記 * 森山・新宿・荒木 * 往生写集 をおすすめしたいと思います。
「センチメンタルな旅・冬の旅」は定番で、日本写真界において外せない写真集です。
今回の特集では「センチメンタルな旅」新婚旅行
- 作者: 荒木経惟
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1991/02
- メディア: ハードカバー
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「偽日記」はその後に続く、偽りの日付を焼き付けたスナップ写真です。
新装版みたいなのが無いので、見る機会が少ないかもしれませんが、レジェンドクラスの写真集なのに古本もそんなに高くないので損はないと思います。
「森山・新宿・荒木」は森山大道と荒木経惟が撮影した新宿の写真をまとめたものです。2人が一緒に歩いて撮った写真も一部あり、2人の写真の違いが見て取れます。
森山大道と荒木経惟が撮った新宿の写真を混ざっているので、荒木経惟だけを見たい方には向いていませんが、今回のSWITCH的にはいいんじゃないかなぁと思います。
「往生写集」は最近撮っている写真が
不謹慎ですが、死んだ後のことを考えているような写真が詰まっているのでアラーキーが生きているうちに見たほうがいいと思います。
- 作者: 浜田優,マリオ・ペルニオーラ,藤野可織,荒木経惟
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2014/04/26
- メディア: ペーパーバック
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まとめ
さっちんもないし、チロもないし、緊縛も、ポラロイドもないのはホンマタカシの器の小ささというか、得意なとこだけやっているようで荒木経惟の全体にはとても迫る内容ではありませんが、足がかりとしては写真集や写真家の名前が沢山出てくるので参考になる内容だと思います。
SWITCH Vol.33 No.2 ◆ 荒木経惟のたのしい写真術 ホンマタカシのアラーキー・ワークショップ13講座
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2015/01/20
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