360万パワー

1977年生まれ

ポートレートに最適なレンズは85mmではない

ポートレートには85mmのレンズがいい!なんていう人が沢山います。価格.comのクチコミ掲示板なんかが特にそうです。 「子供を撮るならこのレンズはどうでしょうか?」「ポートレートといえば85mmが基本!」みたいなやりとりが星の数ほど見られます。

私はポートレートに85mmを使うのが好きじゃないので、85mmがポートレートに向いている理由を問い詰めたいのですが、大人なのでそんなことはせずに85mmでは撮れないポートレート焦点距離別について書いてみます。

21mm

超広角レンズで撮られたポートレートで有名なものといえばジャンルー・シーフです。 ジャンルー・シーフは21mmのSUPER ANGULONを使っていたことで知られています。21mmの極端なパースを使い、女性らしい体のラインを強調した写真が沢山あります。

Sieff. Ediz. italiana, spagnola e portoghese

Sieff. Ediz. italiana, spagnola e portoghese

篠山紀信がデスバレーで撮ったヌードも広角のパースを活かしています。こちらはレンズがわからないのですが、恐らく21mmか25mmでしょう。

90mm前後のレンズを使うとパースが正確に写るとされていますが、パースを正確に写しとるだけでは能がありません。パースを強調した写真は85mmでは絶対に撮れません。

超広角レンズによるポートレートといえば、荒木経惟の「センチメンタルな旅」も有名です。ニコンに20mmのレンズの組み合わせで撮ったそうです。新婚旅行なのに距離感を感じる、独特な雰囲気は超広角レンズだからでしょう。もしアラーキーが85mmのレンズだけを持って新婚旅行にいったら、日本写真界の歴史は全く別のものになっていたはずです。

センチメンタルな旅・冬の旅

センチメンタルな旅・冬の旅

25mm

21mmと20mmに触れたので、それに近い25mmは外そうかとも思いましたが、ついでです。

25mmはツァイス特有の焦点距離で、ニコンキヤノンなどは25mmではなく24mmを使っています。 25mmで有名なレンズはトポゴンですが、東側のツァイス、イエナのフレクトゴンというレンズで撮られた写真を紹介します。 ジョセフ・クーデルカの出世作、ジプシーズはフレクトゴン25mmで撮られました。35mmを買うように頼んだら間違って25mmを買ってきてしまい、しょうがないからそれを持っていったら、いい写真が撮れた、というエピソードが有名です。

www.pen-online.jp

Josef Koudelka (Photofile)

Josef Koudelka (Photofile)

ポートレートというかドキュメンタリーですが、クーデルカは広角で生活感を引き立て、その生活に立脚した人物を浮かびあげさせています。

35mm

川島小鳥の「未来ちゃん」はニコンのF6にAF-D 35mmを付けて撮っているそうです。

fujifilm.jp

たまたま川島小鳥が大きくなった未来ちゃん?と一緒にいるところを見かけましたが、やっぱりF6に35mmに小さいクリップオンストロボをつけていました。カメラとレンズを同じものを使い撮り続けることで作品に統一感を持たせているわけです。

未来ちゃんの写真の面白さは彼女のファニーさだけではなくて周りも一緒に写っていることが1つの要因です。35mmを使うことで未来ちゃんとその状況を一緒に写すことが出来ています。周りの状況も見えるからこそ、あの写真が成り立っています。

「未来ちゃん」を見てレンズが広角すぎ!85mmならもっといいポートレートになった!なんて思う人はいないでしょう。

未来ちゃん

未来ちゃん

50mm

カメラをはじめると50mmが標準レンズと呼ばれていることをあちこちで見かけるので、標準レンズといえば50mmを指すものだと知っているかと思います。しかし認知度の高さに反し、どうして50mmが標準なのか、その理由、その説は様々あり曖昧です。 では写った写真において、50mmで撮られたものが標準的かというと感じ方は人それぞれでしょう。

標準的レンズで撮られたポートレートというのは世界中に沢山あると思いますが、標準であるが故に沢山ありすぎるためか、50mmで撮られた有名なポートレートというのは記憶が曖昧です。

曖昧ですが、2眼レフで撮られた写真集というと有名なものがいくつかあります。 例えばエルスケンの「セーヌ左岸の恋」です。

Love on the Left Bank

Love on the Left Bank

2眼レフは基本的にレンズ固定式で、使われているレンズは75mmや80mm。35mm換算(ライカ判換算)で45mmくらいです(ライカ判の50mmは正確には51.6mmが一般的)。なので所謂50mmと比べるとちょっと広角寄りですが、標準レンズの範囲内でしょう。

さて、エルスケンの「セーヌ左岸の恋」です。エルスケンはローライ(たぶんローライフレックスじゃなくて廉価版のローライコード)1つ持ってアムステルダムからパリに渡り、そこで作った写真集が「セーヌ左岸の恋」です。タイトル通り、恋物語をまとめたものです。

「セーヌ左岸の恋」も「未来ちゃん」のように人物だけでなく周りも写っていますが、「未来ちゃん」と比べると画面は人物の割合が多くなっています。人物を強調させることで、2人のドラマ感が生まれているのでしょう。

2人の関係性、恋物語は、やはり85mmでは撮れない写真といえます。

まとめ

人を撮るのに85mmが最適なこともあるでしょうし、35mmが最適なこともあるでしょう。場合によっては21mmかもしれません。どのレンズが最適なのか、それはどんな写真を撮りたいのかによって変わってきます。 つまり、85mmも50mmも35mmも21mmも買う必要があるってことです。だから、あの人同じようなレンズばっかり持っていて、撮るよりもレンズを買うのが趣味なんじゃないのかな?とか思わないでください。同じようなレンズが欲しくなるのは、物欲のせいだけではないのです。