360万パワー

1977年生まれ

地方の文化、実際に住んでいる新潟の文化

地方と文化の話し。

togetter.com

地方に生まれて育ち、今のところ2/3くらいを地方で過ごしているものとして考えたことを。

地方に散らばった文化

太平洋戦争中、多くの文化人が地方へ疎開しました。私が住む新潟だと堀口大学や濱谷浩、會津八一坂口安吾も一時新潟に戻ってきました。 中には戦後もしばらく疎開先に残り、地方で活動を続けていた人たちもいました。濱谷浩もその一人でした。

濱谷浩は写真家で、日本で最初にマグナムの寄稿写真家となり、ハッセルブラッド賞を受賞しています。あまり知られていませんが、結構すごい写真家です。

その濱谷浩の高田時代は潜像残像という本に詳しく書かれています。濱谷浩は高田で上越文化懇話会という集まりが発行する文藝册子という冊子にいくつか文章を寄せています。 高田に限らず、戦後直後は地方に散らばった文化人を巻き込んだ、こういった活動が盛んだったようです。そして先生役となった文化人の弟子が、地方に留まりその後の活動を引き継いでいくわけですが、次第にこういった活動も下火になったようです。

潜像残像―写真体験60年 (筑摩叢書)

潜像残像―写真体験60年 (筑摩叢書)

下火になったとはいえ、地方で文化活動ができないかというと、そんなことはないと思うのです。 写真でいえば、植田正治は一貫してアマチュアとして地方で活動しました。それでも誰でもが知っているとまではいかないかもしれませんが、多くの人が見たであろう写真を残していますし、影響を与えています。それもインターネットのない時代に。

地方時間

植田正治もそうですが、地方で仕事をしながら情熱的に活動している人たちは少なくありません。現代だと時間の使い方が都市部と地方ではだいぶ違うような気がしますが、地方では時間の都合がつけやすいことが影響しているような気がします。

写真がもっと好きになる。 - ほぼ日刊イトイ新聞

平成23年社会生活基本調査によると、例えば帰宅時間が最も遅い地域は予想通り東京です。全国平均が18時56分に対し、東京はぶっちぎりに遅く19時45分。通勤・通学時間は10大都市圏とその他で集計されています。最も長いのは予想通り関東大都市圏で男性で1時間32分。最も短いのは新潟大都市圏で男性で48分。 東京は大変そうですが、仕事の時間は意外なことに全国平均より短くなっています。

www.stat.go.jp

文化的な活動には美術館や博物館、図書館などが必要かもしれませんが、それ以外にも時間は必ず必要です。その時間に関して、地方は首都圏よりは有利かなぁと思います。

新潟のこと

さて、新潟の文化活動についても書こうと思います。こういったものは自分自身の経験以外を語るのは難しいから。

新潟県はクソ長いけれど、美術館や映画館は新潟市長岡市に集中しています。スポーツはJ1のアルビは新潟市ばかり、たぶん新潟市だけで試合をしています。一方、皇后杯で準優勝したアルビレックスレディースの方はホームゲームは新潟市以外の方が多いかもしれません。J1はスタジアムの規定が厳しいのでどこでも出来るわけではないのでしょうがないのかもしれません。野球の独立リーグアルビレックスBC三条市という金属加工で有名なところで試合をすることが多いようです。 美術館などに比べると、スポーツの方はやれる場所が多いというわけです。

地方自治体の文化政策とその批判

美術館や映画館が少ないのは東京と新潟を較べても明らかですし、新潟県内でも明らかに偏っています。住んでいる人の数が偏っているのだから、しょうがない。だからといって文化的な活動ができないとは思っていません。 新潟市りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館には日本で初めての劇場専属ダンスカンパニー、Noismがあります。どういった経緯で劇場専属ダンスカンパニーを持ったのか知らないのですが、市民団体に税金の無駄遣いと批判されました。

noism.jp

知名度は妻有トリエンナーレよりもずっと低いようですが、新潟市は水と土の芸術祭というのを行っています。これもやっぱり市民団体に批判されました。水と土の芸術祭はトリエンナーレとは謳っていませんが3年毎に行い3回目となった今年はあんまり批判する声も聞こえなくなりました。 映画好きの市長が始めた夕張の映画祭のように、批判にも理はあるのだと思いますが、地方自治体の文化政策は標的にされやすい批判対象であることは地方と文化を考える時に避けられないと思います。 この辺は市民活動に携わっている方の意見を伺いたいところです。

文化がつく熟語に食文化がありますが、食文化にかんする新潟市新潟県の取り組みは批判されません。新潟の人は食べるのが好きなのです。食べるのが好きですし、米や酒が美味しいという自負があるので、批判しないのだと思います。

一方で芸術、ハイカルチャーに分類されるようなものは田舎者では出来ないという考えが強いから批判されるのかもしれません。現在の東京芸大の学長は佐渡出身なので、田舎者でも芸術は可能なのでしょう。ちなみに佐渡は芸術、芸能に寛容、理解があるのか、作家が非常に沢山いる変なところです。

都会に出てから

新潟に生まれ、育ち、大学から10年横浜に住んでいました。横浜に住んでいた頃、色々な美術館やギャラリー、映画館で映画を見ました。

新潟と比べるとギャラリー、ミニシアター系の映画は比べようもありません。実感しました。新潟にもギャラリーはありますが、地元の作家の展示がほとんどで、タカイシイギャラリーのようなギャラリーはありません。たぶん、東京以外にタカイシイギャラリーに並ぶギャラリーはないと思うので比べようというのが間違いかもしれません。

映画でいうとミニシアター系は新潟ではほぼ上映されません。上映されるのもありますが、圧倒的に足りません。

受動的なものは東京に敵う地方はないと思います。しかし、そもそも東京で十分なのかというとそうでもないでしょう。見たい人は東京には飽きたらず、ニューヨークでもパリでも飛んでいって見に行くし、逆に展示を見るために東京から新潟に見に来てくれる人もいます。

東京には多種多様な文化的な展示、発表がありますが、東京に住んでいるからといって全てをフォローすることは出来ません。地方民としては羨ましい限りですが、東京在住の方はどうやって折り合いをつけているのか気になるところです。

新潟に戻って

私は写真が好きで、見るのも撮るのも好きですが、新潟に戻って撮っているうちに色々な方と知り合う事ができました。

地方のいいところか、悪いところか、人間関係が近く、知り合う時は連鎖的にどんどん知り合うことが出来ます。私のことをどこで知ったのか、東京に出る時は会いたいと言ってくれる方もいますが、新潟にいると会いたいかどうかに関わらず、会わざるを得ない方とは会ってしまいます。

写真以外でもそれは起きているでしょうし、ジャンルを横断的にそれは起きているようです。

東京は活動している方は沢山いますが、会おうと思わない限り会えないような気がするのは地方とはだいぶ違います。

文化とか教養とか

そもそも文化とか教養とはなんぞや?という事を考えないといけません。 ○○文化という言葉で考えると、食文化は東京よりも地方の方がずっと豊かなような気がします。地方より東京の方が様々な種類の食べ物を味わえるでしょう。しかし、その根っこは東京にないものばかりです。地方ではその地方に根っこが埋まっている、食文化を体験することができるでしょう。 根っこはともかく、多様な文化を体感しやすい環境がいいのか、目につきにくい根っこまで含めて体験しやすい環境がいいのか、判断がつきませんが、その人が何を求めているかで評価は変わります。

とにかく沢山の種類に触れたいのであれば地方は東京に敵うわけがありません。逆に土着的な文化を深く掘り下げるのなら、東京はその地方に敵うことはありません。何を文化と呼び、何を教養とするのかで地方と東京の差は変わります。地方と東京以前に文化に何を求めるかで話しはだいぶ変わるのでは。

最後に

地方で文化に触れることが出来ない、ということはないと思います。東京と比べると美術館でもなんでも少ないのでないものねだりになるのは当然です。しかし、文化は美術館にだけあるものではありません。

文化的な活動が限定されるのは住んでいる場所よりも、意欲の方がまだまだ大きく影響しているような気がします。